私の名前は熊田久真子(クマダ クマコ)。
クマった商事の広報担当として働いている、パスタと鮭と、ちょっとお酒が大好きな普通の女子だ。
私の業務内容は社外へのPR活動に関する資料作成や、自社WEBサイトに掲載する記事の企画からそれに関わる社内部署や業者との各種調整などだ。
しかしこんなご時世なので、企画に関する取材を行ったりする場合を除いては、在宅ワークが殆どだ。普段は自宅の四角い世界で生活をしている。
ただ最近、我ながらちょっと運動不足が気になっている。そこで、この日は仕事が終わった夕方、食材を求めて駅前のスーパーまで歩くことにした。
今日は特に空が美しい。青空に浮かぶ雲が夕日に染まり、オレンジとピンクのグラデーションが広がる。近隣の桜はすでに散り始め、花びらが風に乗って舞い落ちる。
その一部始終を眺めながら歩く私の足取りは、まるで季節の変わり目を肌で感じているようだ。
駅前のスーパーへと向かう道、帰宅する人々とは自分だけが逆方向へ歩くその感覚は、少しの違和感を伴う。しかしそれもまた新鮮で、夕方の心地よい空気が、その違和感を和らげてくれる。
途中、公園のベンチで一休みする。子どもたちが遊具で遊ぶ声や、散歩するカップルの笑い声が聞こえてくる。
こんな光景も、私の日常からは少し離れたものになってしまった。
スマートフォンを手に、友人にLINEを送る。
それが画面越しだっとしても、誰かと繋がっている感覚は心強い。
スーパーに着くと、店内は夕方の賑わいで溢れている。値引きシールが貼られた商品が目につく。今日も買い過ぎてしまうかもしれないが、この時間帯のお得感は否めない。
特に私の大好きな鮭が、魅力的な価格で売られている。
ポイントが貯まるクレジットカードで支払いを済ませる。
ここで貯まったポイントは、また次の鮭となって私の身体の一部になる。
レジでの小さな会話が、今の私には人との貴重な交流となる。店員さんの「ありがとうございます」という一言が、なぜか心に響く。
こんな些細なことが、日常の一コマとして新鮮に感じられるのは、在宅勤務の影響だろうか。
こうして在宅で過ごすことで、出勤がないためにかかる費用を大きく節約できる。ランチ代やお茶代、女子的にはお化粧代なども節約できる。
しかし経済的なメリットが大きい一方で、心の奥底には何か引っ掛かるものがある。画面越しの人々との交流だけでは、どこか満たされない寂しさが残る。
自宅と近所だけの生活は計画が立てやすく、生活費も抑えられるが、人とのリアルな出会いが極端に減る。このままデジタルだけの交流で満足できるのだろうかという不安が、時折頭をもたげる。
私のように在宅ミニマム生活に心地よさを感じつつも、人との接触を渇望する人々は少なくないはずだ。一体全体、この先どうバランスを取れば良いのだろうか。
残念ながら、私はまだ答えを見つけ出せていない。
しかし今はこの小さな疑問を抱えながらも、日々を大切に過ごすことにしている。
多分、これが今の私にできる最善の策なのだろう。
帰宅してキッチンに立ち、今日購入した鮭を手に取る。包丁を入れるたび、普段の疲れが解けていくようだ。
夕食の準備をする私の周りで、世界は少しずつ暗くなっていく。窓の外からは、すでに夜の帳が下り、街の灯りが一つまた一つと灯っている。
キッチンでは、鮭の焼けるいい香りが漂ってくる。鮭の上には少しのバターとレモンを添え、それがまた格別の風味を加える。
炊き立てのご飯と共に食卓に並べると、一日の疲れが報われる瞬間だ。
朝起きて、仕事をして、鮭を食べて寝ることの繰り返し。
だが鮭は本能的にやめられない。
こうして私の一日が終わりを告げる。私は、少しだけ明日が楽しみになる。明日もまた、同じように過ごすのか、それとも何か小さな冒険をするのか。
毎日が少しずつ変わる中で、私は新たな自分を見つけようとしている。
在宅ワークという新しいライフスタイルは、多くのメリットをもたらしてくれたが、それと同時に多くの課題も提示している。
経済的な節約、時間の自由、そして何より自宅で過ごす心地よさ。しかし人との直接的な交流が減少することの寂しさは、計り知れない。
私たちは、どうやらこれからも長くこのスタイルに順応していく必要があるようだ。その過程で、どのように心のバランスを取り、新しい日常に意味を見出すかが問われる。
私はその答えを出すために、毎日を大切に生きることを心がけている。それが、未来への小さな一歩になるのだと信じて。
こうして、クマ子の「クマった生活」も続いていく。明日も、そしてこれからも。
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クマ子の小説風ブログ、第3話はこちらに掲載しています。
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