クマ子の小説風ブログ: デジタルとアナログの狭間で

語る

私の名前は熊田久真子(クマダ クマコ)。
友達からは子供の頃から「クマ子」「クマ子」と呼ばれている。名前そのままだ。

私が生まれたとき、父は私に「久美子」と名付けたつもりだったらしいが、出生届に間違えて「久真子」と書いてしまったせいで、私はこんな罰ゲームみたいな名前で暮らしている。

あのクマ親父め、マジでいつかクマ鍋にしてやる。

そんな私も現在は就職し、
「クマった商事」という会社で広報担当として働いている。

広報の業務内容は多岐に渡るが、私の業務は社外へのPR活動に関する資料作成や、自社WEBサイトに掲載する記事の企画からそれに関わる社内部署や業者との各種調整などだ。

こんなご時世なので、私も普段は在宅ワークが殆どだ。
普段は快適な自宅のデスクで働いている。

しかし今日は珍しく会社に向かう必要があった。

窓から朝日が差し込む部屋で、出社用のバッグを準備している。
最近は自宅周辺の地域のみで生活しているので、久しぶりの通勤は正直気が重い。

リモートワークが常態化してから、こうして家を出ることは殆ど無くなっていたのだ。片道1時間の通勤。久しぶりに乗る電車の揺れに、何とも言えない興奮と緊張が混じり合う。

今日の出社目的は、たった一枚の書面に署名することだ。

私の会社には、社内システムを利用するための書面(誓約書)に署名して、定期的に提出しなければならないルールがある。

たった10秒で終わる署名のために、片道1時間、往復で2時間を費やすのは何とも皮肉なものだ。

会社に到着し、いつもと変わらない景色が目に入る。
しかし今日の私は、ただの来訪者のような気持ちだった。

同じ会社の中でも、担当している業務や家庭環境によっては在宅ワークが難しい人たちもいる。今の社内は、そんな人たちがいつもと同じように、社内で忙しそうに働いている。

私のような在宅ワークがメインの人間にとっては、全く別の環境に飛び込んでしまった感覚になるのが不思議でならない。

私は空いている席に座り、いつもと同じようにPCを起動する。そして署名が必要な書面のファイルを開き、印刷を試みる。

会社の複合機で印刷するなんて、いつ以来だろうか?
最近はペーパーレス化が進み、社外との打ち合わせですら資料を印刷する機会がなくなった。

PCから印刷の指示は出したので、私は複合機へ向かった。
あとは複合機で認証を通し、PCから出した印刷の指示を実行するだけだ。

だが複合機が言うことを聞かない。私からの指示など聞いていないという素振りだ。

会社のオフィスで、会社から貸与されたPCから会社の複合機にA4サイズの紙をたった1枚印刷するだけなのに、そのハードルが異常に高い。

結局、紙1枚を印刷するために30分も奮戦したが、私の能力では解決に至らなかった。

私が複合機の前で途方に暮れていると、その日偶然出社していた同僚が救いの手を差し伸べてくれた。「大丈夫?印刷、手伝おうか?」 彼女の優しい一言に心から感謝し、「お願いできる?」と答えた。

無事に書面が手元に届き、署名をする。予定通り、署名に要した時間はたったの10秒だ。

その後、また同僚の助けを借りて書面をスキャンし、主管部署に電子データとして送信した。
本来ならば避けたかった非効率の極みを経験しながら、私は窓の外を見た。

デジタル化が進む世の中で、まだアナログの要素が色濃く残る場面に遭遇するたび、そのギャップに戸惑ってしまう。今日一日の出来事が、そんな現実を改めて教えてくれた。

帰りの電車で、久しぶりに周囲を観察する。乗客たちの会話、スマートフォンに見入る姿、時折窓の外を眺める表情。それぞれがデジタルとリアルの間を行き来している。

そんな彼らを見ていると、私たちはこの速い時代にどれだけ適応しているのか、という問いが心をよぎる。 私たちはこの狭間で生きている。

便利さを手に入れたはずのデジタル時代において、アナログの重さに足を取られる瞬間もある。それでも、明日からはまたリモートワークでの仕事が始まる。

家のデスクに戻り、再びデジタルの海に身を投じるのだ。

家に帰り着いて、一日の終わりに静かにコーヒーを淹れる。カップに口をつけながら、今日一日を振り返る。

デジタルとアナログの狭間で感じた矛盾やフラストレーション、そして時折見せる人間らしい温かみ。それら全てが、私たちの生活の一部として存在している。

デジタル化が進んでも、人の手が必要な場面はまだまだ残っている。今日のように、わずか10秒の署名のために何時間も費やすことが矛盾しているように感じられるかもしれないが、それが今の私たちの現実だ。

このギャップをどう橋渡ししていくかは、これからの大きな課題と言えるだろう。リモートワークがもたらす自由と、オフィスでの対面の重要性。

このバランスを取ることが今後のキーになりそうだ。技術が進化する一方で、人と人との直接的な交流が生み出す価値は、決してデジタルだけでは代替できない。

カップを置きながら、明日への準備を始める。デスクを整え、必要な資料をデジタルで整理する。新たな一日が、新たなチャレンジが待っている。

デジタルとアナログ、その狭間で揺れ動く日常が私たちにとっての新しい「通常」になっていく。

こうして、クマ子の「クマった生活」も続いていく。明日も、そしてこれからも。

こちらの記事ですが、YouTubeでも公開でしています。
ぜひご覧ください。

クマの小説風ブログ、第2話はこちらに掲載しています。

クマ子の小説風ブログ:在宅ミニマム生活の光と影
クマった商事広報担当・熊田久真子の日常と在宅ワークのリアルを綴る、心温まる小説風ブログです。

 

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クマゴロさんのクマった生活

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